くもとゆめ
奈良の昔話
「 夢の蜂 」 という話型の昔話かなと思うのですが、「 宝化け物 」かもしれないとも思っています。
「 夢の蜂 」 では、人の魂が寝ている間に昆虫になって体から抜け出し、宝を見つけてもどってくるのですが、この 「 くもと夢 」 は、蜘蛛が人の体に入って宝のありかを教えます ね。「 ふたりの男ー昆虫―夢―宝 」 という点で 「 夢の蜂 」 と同じ、ストーリーもそっくり。でも、テーマは違うような気がします。
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この原話 ( 『 出雲の昔話 』 所収)を見つけたのはおはなしを始めて間もないころです。出雲の土地言葉で語られていますが、きちんと注がついているので意味はよくわかります。でも、この土地言葉では、このまま覚えて語ることはできませんでした。それで、自分の言葉に直しました。どうしても子どもたちに語り伝えたかったのです。まだ、再話の 「 さ 」 の字も知らなかった頃のことです。
低学年から高学年まで、数えきれないほどの回数を語りました。 音声は、4年生。
ふだんの生活の中で、幼い子どもは、深い気持ちもなくアリや虫を殺します。そして、殺した命が二度と生き返らないことを、身をもって理解します。衝撃とともに。そんな経験はみなが持っています。だから、子どもは、さるのしたことを残酷だと一方的に非難はしません。むしろ、さるの立場で聞いている子どもは、自分の経験に照らし合わせてはっとします。そして、かにをだんごに丸めて返事させようとするさるの行為を、子どもは 「 我がままだ 」 とは考えません。さるの祈るような思いが分かるからです。共感です。だから、返事が返ってきたとき、子どもは救われたようなうれしそうな顔をします。そして、「 ものいうても返事するもんがおらなんだらあかんなあ 」 というテーマをすっと受けとめてくれます。
以前、6年生に語ったとき、あとでひとりの男の子が目を赤くして、こっそりいいに来てくれました。
「 昔話はいいなあ。死んでも生き返るから 」
この子は幼稚園のときから昔話を聞いてくれていた子でした。
ちなみに、ずっとあとになって、松谷みよ子さんの再話による絵本 『 さるのひとりごと 』 が出版されました。
共通語テキストは『語りの森昔話集2ねむりねっこ』に掲載しています。こちら⇒書籍案内