ライブ録音から4

おはなし会は生きもので、どんなにきっちり練習していても、テキスト通りの言葉にならないことがよくあります。聞き手が返してくる気持ちや言葉に、思わず反応してしまうからです。また、まったく何も返ってこないときも、それはそれでうろたえます。それがライブの恐さであり、おもしろさでもあるのでしょう。私たちは機械ではないので、いつも同じように語ることはできません。いつも同じがよいのなら、テープレコーダーで十分です。

とはいえ、テキストをさんざん検討したうえで語るわけですから、ミスはしたくないですね。

今回はその辺りに焦点を当てて聞いてください。テキストを手元に置いてどのように違っているか、聞いてください。ミスもありますし、あえて変えている部分もあります。 

「かも取り権兵衛」『日本の昔話2』おざわとしお再話/福音館書店

かも取り権兵衛

日常語で語っています。だから、テキストをどのように変えているかがよくわかります。語彙だけでなく、語順も変わっているでしょう。語順はとても大切です。土地言葉のリズムを決定するといってもいいと思います。また、共通語であっても、聞き手に見えるものから順番に言葉を出していくこと。そうするだけで、聞き手はとてもリアルに受け止めてくれます。
 
この音声は5年生です。このときはグリム童話「三本の金髪を持った悪魔」のあとに語りました。グリム童話「金の鳥」と組み合わせることもあります。 

「かえるの王さま」『子どもに語るグリムの昔話2』佐々梨代子・野村ひろし訳/こぐま社

かえるの王さま

一応上記を出典としてあげましたが、ずいぶんテキストに手を入れています。聞き手に見えるものから順番に語っています。それだけでなく、聞き手が納得できるように順番を変えています。
 
この話を語りはじめて10年以上になります。まずは出典通りに覚えたのですが、練習段階で納得できない部分やまどろっこしい部分がでてきたので書き直しました。
 
ストーリーは変えていませんよ。ストーリーがよくわかるように、言葉を変えているのです。
 
グリム童話の第1番ということで、ステージや教室で、たくさんの観客や学生の前で語る経験をしてきた話です。聞き手が子どもやおはなし仲間でないとき、とても気を使います。つまり昔話というものを知らない相手が聞き手のときです。例えばお姫さまがかえるを投げつけたら王子になって、その王子と結婚して幸せになった、それを理不尽と感じない語りかたをしなくてはなりません。いきなり出てきた忠臣ハインリヒの胸のタガがはじけるときには、やはり感動してもらわなければなりません。
 
そんなわけで、語りの経験を積むにつれてずいぶん言葉が変わりました。
 
音声は4年生です。 

「ントジィの蛇退治」『語りの森昔話集2ねむりねっこ』村上郁再話/語りの森

ントジィの蛇退治

竜退治の物語です。
ントジィの勇気と強さにあこがれて、本格的な昔話として再話したのですが、アフリカらしいファンタジーと累積譚的な部分が子どもには面白かったようです。楽し気な子どもの反応に面食らいました。それで、石がントジィのお供になるところで、急きょ、それまでと同じ言葉でくりかえしました。完全な累積譚にしたのです。テキストと比べてみてください。
 
子どもに語ってみて初めておはなしの姿がわかるといういい例です。この録音が、初めての語りだったので、次に語るときは、語りかたがかなり変わると思います。

それから、「巨人の心臓は卵の中」というモティーフに、子どもが気づいているのが音声からも分かると思います。だから、ここは、きっちりイメージできるように語らないといけません。

音声は4年生です。 

「三つの五月のもも」『語りの森昔話集2ねむりねっこ』村上郁再話/語りの森

三つの五月のもも4年生
三つの五月のもも3年生

この話は3年生向きの話として再話しました。
 
4年生にはお試しで語ってみたのですが、楽しんでくれているのが音声から分かると思います。落ち着いて聞いているので、わたしもほぼテキスト通りに語っています。ただ、「とんぼ返り」と「真実」がイメージしにくかったようで、質問されました。どう答えているか聞いてください。
 
3年生は、うまく録音できていませんが、ほぼ一言一言に突っ込みが入りました。しかも体調不良もあって十分に練習できていませんでした。それで、ミスを犯しています。表現の間違いもありますが、お姫さまが若者からもらったうさぎをエプロンに入れ忘れています。これはダメです。といういい例です。反応があることをある程度想定して再話したのだから、それにきちんと返せるように正しく語らなくてはなりません。
 
それでも子どもたちはじょうずに聞いています。最後のエピソードのところで、主人公が「それはほんとうですか?」と質問したのに対して、ひとりの子が「はい!」と答えています。「真実は真実だ」といってほしかったからのか、主人公を勝たせたかったからなのか、わかりませんが、ストーリーとテーマをがっちりつかまえての反応です。こういう反応があると、語ってよかったと思います。 

「カンチルとワニ」『語りの森昔話集3しんぺいとうざ』村上郁再話/語りの森

カンチルとワニ

音声は3年生です。
 
幼稚園から低学年向きに再話しましたが、カンチルの賢さがわかるのは幼稚園では難しいようです。2年生の国語で「いなばのしろうさぎ」を習うので、時期的にはその後のほうが興味を持ってくれます。
 
「枯れ木はひとりじゃ動けない~」の二度目のくりかえしは、子どももいっしょに言っています。語り手と一緒になって楽しむおはなしです。
 
《外国の昔話》の音声は4年生です。おまけの笑い話として、やはり語り手と一緒になって楽しんでいます。そちらも聞いてくださいね。 

「アリョーヌシカとイワーヌシカ」『まほうの馬』A・トルストイ/高杉一郎・田中泰子訳/岩波書店

アリョーヌシカとイワーヌシカ

音声は、学童保育の1~6年の子どもたちです。語りにかなり力が入っているのは、夏休みで語り手も聞き手も集中力に欠ける状態だったからです。

この話は、もう20年以上語っています。いつも、子どもたちはこの不思議な世界に入りこみます。三回のくりかえし部分を中心にテキストに手を入れています。

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