恐い話

前回、笑い話は失敗したとき、失敗があからさまになると書きました。笑ってもらえなくていたたまれなくなるんですね。

それに対して、恐い話の場合は、もともと、子どもは虚勢を張って「恐くない」といいますから、ほんとうは恐いのに恐くないといっているだけなのか、ほんとうに恐くなくてがっかりしているのか、現象としてはっきりあらわれません。

ただ、子どもは、ほんとうに恐いときは、笑います。 

恐い話には、いくつかのパターンがあります。

「ジャックと豆の木」や、「食わず女房」や、「ババ・ヤガー」、「日と月と星」のように、大男や鬼婆などの自分に危害を加えるものから逃げる話を、子どもたちは恐がります。ただ、これは得体のしれないものへの恐怖心ではありませんね。スリルを楽しむのです。はらはらどきどきしながら、恐さに耐えて聞きます。昔話は、かならず主人公が勝ちます。最後は幸せになることが分かっているので、長い話でも恐さに耐えることができます。次から次におそいかかる危地から脱出するたびに、子どもたちは笑いますね。緊張が緩和したときに起こる笑いです。

ただし、子どもはひとりひとり感性が違うので、語り手は子どもの表情を読みとって、恐がらせすぎないように気をつけなくてはなりません。 

得体のしれないものにぞっとする話。子どもたちの好きな「学校の怪談」のような話もあります。「山姥と桶屋」、「死人の手」、「こんな目かあ」、「九尾の狐」などです。たいていは1モティーフの短い話です。

この類の話を語るときは、語り手は、子どもたちの「恐がらせて!」という要求に、思いきり楽しみながらよろこんで応えるといいです。声の音の高低や大小、表情も使います。恐い話も「間」が命ですが、この間をとるのは、笑い話ほど難しくありません。きっと大人は子どもを恐がらせるのが本来好きなのかもしれないと思ったりもします。

ただし、この類の話は最後がハッピーエンドであることは少ないので、子どもの心を恐怖で傷つけていないか、注意が必要です。親しい間柄の子どもに語りましょう。 

もうひとつ、聞き手を物語の最後でびっくりさせる話があります。ジャンピング・ストーリーともいいます。
「くらいくらい」、「ちいちゃいちいちゃい」『イギリスとアイルランドの昔話』石井桃子訳福音館書店刊、「金の腕」『おはなしのろうそく』東京子ども図書館、などです。

語り手は最後の一言で突然大きな声を発し、聞き手を跳び上がらせます。最後の一言に向けて声の大きさをディミニエンドしていきます。このディミニエンドによって、逆に、聞き手の恐怖や不安がクレッシェンドしていきます。

ジャンピングストーリーは語るのはとても楽しいのですが、突然大きな音がすると硬直する子どもがいるので、大丈夫かどうか前もって確認しておく必要があります。 

どのタイプの話にしても、子どもを恐がらせすぎないようにすることが重要です。

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