「異界へ行く話」カテゴリーアーカイブ

海の水はなぜからい

うみのみずはなぜからい

ノルウェーの昔話

ATU565「魔法のひき臼」

クリスマス・イヴのこと、貧しい弟が、金持ちの兄さんに食べ物を乞います。
いじわるな兄さんは、ベーコンをくれますが、「まっすぐ地獄へ行っちまえ」といいます。なんだかみじめで最低の状況です。
ところが、そのおかげで弟は地獄でまほうの引き臼を手に入れて、大金持ちになるのです。

この類話は世界中にあって、日本でも古くから語られています。
もともとは、北欧が発祥ではないかといわれています。

グリム童話では、KHM103「おいしいおかゆ」が類話です。
ずいぶん雰囲気が異なりますね。「おいしいおかゆ」では、地獄ではなく森の中。悪魔ではなく、おばあさん。やっぱり彼岸者ですが、援助者です。いじわる兄さんではなくお母さんです。お母さんにできないことを、小さな女の子がやってのけて、みんなをおかゆから救う。幼い子が満足できる話です。
「海の水はなぜからい」は、もう少し複雑な構造になっています。小学2年生くらいから楽しめるのではないでしょうか。クリスマス会や新年会にどうぞ。


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地のはての井戸

ちのはてのいど

スコットランドの昔話

ATU480「親切な少女と不親切な少女」少女が継母からひどい仕打ちを受け、とてもつらい仕事をしなければならない。少女は彼岸者から幸をもらい、継母は実子にも同じことをさせるんだけど、不親切な実子は、不幸をもらう。というお話。

グリム童話KHM13「森の中の三人のこびと」、KHM24「ホレばあさん」(こちら⇒)、アメリカの昔話「ものをいう卵」(こちら⇒)などが類話です。
いろんな話型のエピソードと結びついているので、バリエーションが豊富です。

「地のはての井戸」には、ホレばあさんにあたる彼岸者は出て来ませんが、馬とウニに出会います。ウニが娘に幸せを与えてくれます。他の類話では、ウニではなくてしゃれこうべだったりします。

低学年から聞けると思います。


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蛙の王女

かえるのおうじょ

ロシアの昔話

いかにもロシアらしい雰囲気の話です。

「話に聞いたこともなければ、絵でも見たことがない」「昔ばなしには聞くけれど、とても想像できないほど」「心配しないでおやすみなさい。朝になればよい知恵も浮かぶでしょう」「短かったか長かったか、どれほど歩いたか」などは、ロシアの昔話によく出てくる常套句です。

転がる糸玉、ミルクの川にキセーリの岸、にわとりの足の上にたつ家、ペーチカ、お風呂、どれもロシアの昔話におなじみの風景です。

ババ・ヤガーと不死身のコシチェイも、ロシアらしい登場人物。

けれども、ストーリーは、ロシア特有ではありませんね。
前半はグリムの「三枚の鳥の羽」にそっくりです。後半の動物の恩返しは、世界じゅうにあります。命が卵の中にあるモティーフもよく知られています。

ATU402「動物花嫁」とATU400「いなくなった妻を捜す夫」が結合しています。
よく似た話でも、民族が違うと、こんなふうに変わるのですね。

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風にのったヤン・フェッテグラーフ

かぜにのったヤン・フェッテグラーフ

ドイツの昔話

真っ暗な道を歩いて行くと、ふしぎなおばあさんに会います。
ものしりグレーテ。
魔女でしょうか?
いえ、キリスト教が入ってくる以前の「賢い女」なのでしょう。糸紡ぎは、女神の仕事だし、この世ができたときからここで糸を紡いでいるのだから。
このおばあさんは、四つの風の母親です。日本の昔話「風の神と子ども」を思い出します。

主人公ヤンは、南風に死ぬことのない国に連れて行ってもらいます。

異界から異界へと移動する、ものすごくスケールの大きい話ですね。それなのに、おばあさんと息子たちの会話は、とっても俗っぽいし、死ぬことのない国のお姫様も王様も、部屋の様子も、日常的です。昔話の面白さですね。

ヤンが故郷に帰るモティーフは、「浦島太郎」と同じです。馬から下りてはいけないと言われたのに、情に負けて馬を下りてしまいます。浦島太郎と同じ、タブーを破って、異界からの贈り物を使えなかった時点で、死が訪れます。

スケールの大きさ、壮大なファンタジーに惹かれて再話しました。最後が主人公の死で終わるので、子どもに語れるかしらと思いましたが、練習しているうちに、もう700年以上も生きたんだから、すごい体験をしたんだから、結局は幸せだったんじゃないかなと思えました。

死神については、興味津々ですが、未調査です(笑)

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七羽のはと

ななわのはと

ドイツの昔話

森の中で道に迷ってこまっていると灯りがひとつ見えます。洋の東西を問わず昔話によくあるシチュエーション。状況の一致。

主人公は、池に水浴びにきた七羽のはとが美しい乙女になるのを目撃します。そして、いちばん美しい娘の肌着を盗んで、その娘を妻にします。羽衣をうばわれて天に帰れなくなった天女の話を思い出しませんか?そうです、日本では「天人女房」とよばれる話型の話で、たなばた伝説や羽衣伝説で有名ですね。

よく似た話が世界中にあるのがふしぎです。この「七羽のはと」は、ATU(国際昔話話型カタログ)では、400番「いなくなった妻を捜す夫」に分類されています。313番「呪的逃走」と結びつくことが多いそうです。「七羽のはと」も、伯爵と妻は、ばらの花と茂み、礼拝堂と神父に変身して、追っ手を出しぬきますね。呪的闘争のモティーフを持っています。

この話の最後に、魔女が、別れていく娘に贈り物をします。娘を自立させる母親の心境になって、ほろっとします。


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矢のくさり

やのくさり

アメリカ・インディアン トリンギット族の昔話

原話の出典には、「トリングギット族」とありますが、一般的には「トリンギット族」。北アメリカ大陸の太平洋岸に暮らしている先住民族です。彼ら自身は「リンギット」と呼び、「人間」を意味します。おなじみのトーテムポールを作る人たちです。日本のアイヌと似た文化を持っていて、交流が続いているそうです。

狩猟民族だから、たいせつな「矢」には特別の価値があるのでしょう。シンボルとしての矢には、「保護。自分を守る」という意味があります。クロスした二本の矢は「友情」。折れた矢は「平和」を意味します。

村長の息子が月への畏敬の念を忘れたために、月が罰をくだします。その罰は、村長の息子自身を痛めつけるというものではありません。むしろそれをたしなめた友達をさらって痛めつけるというものでした。このことが「罰」であるためには、少年たちの友情の深さが根底になければなりませんね。

主人公である村長の息子は、友人をすくうために危険な旅に出ます。月、星、矢、葬式の太鼓・・描かれる情景は澄みきった冷たい空気を感じさせます。テーマの扱いとともに、異文化の新鮮な発見があります。

にもかかわらず、おばあさんがくれたいくつかのものを後ろに投げながら逃走するモティーフは、日本の昔話「三枚のお札」とおなじ。帰ってきたら自分の葬式をしていたというモティーフは奈良の昔話「天狗のまな板石」とおなじ。
《日本の昔話》で確認してください。

高学年の子どもたちに聞かせたいお話です。

テキストは『語りの森昔話集1おんちょろちょろ』に掲載しています。こちら⇒書籍案内

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オーバーン・メアリー

イギリスの昔話

ケルトの昔話。長い話です。ヨーロッパの昔話によく出てくるエピソードが次々とつながって、聞き手を飽きさせません。原題は「THE BATTLE OF THE BIRDS(鳥たちの戦争)」ですが、話型名「主人公の逃走を助ける少女」AT313にちなんで、「オーバーン・メアリー」と題しました。

開けてはいけないといわれたのに袋を開けてしまう。だれにもキスさせてはいけないといわれたのに、飼い犬がキスをする。など、禁令と禁令破りではらはらします。

主人公がオーバーン・メアリーといっしょに巨人から逃げるとき、リンゴの切れ端が彼女に変わって返事をします。巨人が追いかけてくると、馬の耳から木や小石を出して後ろに投げ、それは森や山になります。まるで「三枚のお札」です。

骨の再生は、古い宗教とかかわりのあるモティーフ。最後の古いかぎと新しいかぎもいかにも昔話らしいモティーフです。

最後の2文は結末句です。昔話雑学を参考にしてください。

こういう長いストーリーは、わかりやすい言葉でテンポよく語るのがコツ。子どもの「それで?それで?」に応えるように語りましょう。


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こびとのおくりもの

オーストリアの昔話

ヨーロッパ版の 「 こぶとりじいさん 」 です。
日本の話では山の中で鬼がコブを取りますね。ここでは、森の中で小人がコブを取ってくれます。日本の話と同じく、ちゃんと踊りの歌もあるんですよ。「 月曜日、火曜日、… 」 という曜日の歌なんですけど、子どもたちはそれが気にいったらしく、すっかり覚えて道で会っても歌ってくれます ( 笑 )。
音声は2年生のライブです。


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2年生のライブが聞けます。




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ジャックと豆の木

ジャックとまめのき

イギリスの昔話

音声は、2年生に語っているところ。
だいたい3年生くらいが一番ノッてきますが、ハラハラドキドキ、笑いありなので、もっと小さい子でも楽しめます。私は、幼稚園の5歳児さんの卒園まぎわ二月に語ります。15分はかかる話ですが、子どもたちはまじろぎもせずに聞いた後、「 短~い! 」 といいますね。初めは映画や紙芝居とは違うので 「 あれ? 」 っという感じですが、すぐにストーリーに入り込みます。


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天までとどいた木

ドイツの昔話

長い話です。
三人兄弟の末っ子、まぬけなヘルムが主人公。よくあるモティーフです。
このヘルムが旅をするのですが、まず木を登る途中で七人のお婆さんに次々に会います。天に上ると、そこはひとつの世界で、課題をクリアしてお姫さまと結ばれる。けれど、タブー違反を犯して、さらにはるかかなた暗闇の世界に向けて旅に出ます。そこでさらなる課題が待ちかまえています。
男の子が、まるで階段を上るように成長していく、幼さから脱皮していくことが語られています。


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